郊外地主の相続対策
松堀不動産は賃貸物件の管理業務を行っています。
賃貸物件のオーナー様は、
多くが昔からの地主家系。土地持ちでもあります。
コンサルティング部署では、
地主家系のオーナー様から相続相談を頂くことがあります。
口頭で済ませることもあれば、
きっちり書面を作成してご提案することもあります。
そのなかでの実感ですが、
東松山を始め、いわゆる地方の地主にとっての相続対策は、
東京都内など路線価が高い地域での相続対策と比べると、
取るべき方針が異なる気がします。
オーナーのご子息で問題意識の高い方は、
大手コンサル会社のセミナー等に参加されています。
コンサル会社や税理士事務所が行っているセミナーは
主に財産規模の大きな顧客が対象です。
おおよそ資産額(相続税評価額)が3億円以上くらいから、
大手コンサルの主な業務対象になります。
相続税路線価が60万円の地域で
150坪くらいの土地を1つ持っていれば、
それだけで評価額は約3億円。
コンサル会社のターゲットとしては3億円でも財産規模が小さく、
メインは5億円以上だと思います。
信託銀行のコンサル部門なら最低でも10億円ないとイマイチ。
こんな規模感です。
一方、駅近くの路線価が8万円の我が東松山。
3億円の資産だと、市街化区域に3750坪の土地が必要です。
そこまで土地を抱えている方はいないでしょう。
もし資産額が3億円で配偶者無し・子2人であれば、
相続税額は6920万円。
相続発生時に現金が不足するなら、確かに対策が必要です。
不動産が1つだけなら相続分で揉めますし、
複数の不動産を所有していれば、分け方で揉めそうです。
地方物件のオーナーなど、路線価が低い地域での相続相談は、
規模が大きくても2億円以下です。
中央値は5,000万円~1億円前後でしょうか。
平成初期~中期に相続が発生した家系では、
高額な相続税に驚いた人もいると思います。
当時はバブルの影響で地価が高騰していました。
地価が高ければ土地の相続税評価額も高く、
多くの農家家系が1億円以上の相続税を課されています。
延納したり納税猶予を得た地主も多かったと聞きます。
その時の記憶が残っている方は、まず相続税の心配をされます。
しかしバブル期と比べて今の地価は4分の1。
市街化調整区域の農地ならそれ以下です。
相続税率は累進税率ですから、
財産規模が小さくなれば相続税も安くなります。
当時1億円の相続税を課された家の相続税額は、
現在に引き直すとたったの770万円です。
郊外物件の不動産オーナーが悩むべきことは、
相続税対策ではなく分割対策なのです。
たとえばこんな事例。
「バブル期に高額な相続税が発生し、
また生活のために土地を切り売りした。
現在は、小さい土地がバラバラに残っており、
築古の木造アパートも残っている。
地元で土地の管理を引き継いでくれる子はいない。
子世代は皆、都内に出て仕事している。
彼らは東松山へ戻る魅力も感じていないようで、
次の世代ではどうしたらいいのか・・・」
典型的な事例です。
財産評価額は1億円~高くても1.5億円くらい。
こういう事例、沢山いらっしゃると思うのですが、
コンサル会社や税理士事務所の
メインターゲットではありません。
まず財産評価額が(彼らから見ると)低いため、
コンサル会社の報酬額が安い。
不動産が沢山あって手間ばかりかかる。
市街化調整区域の土地が多く、訳わからない。
都内コンサル企業からすると、やりたくない案件です。
こういう事例でやるべきことは財産評価と、
処分可能か処分不可かの切り分け。
親子の意向を踏まえたうえ相続時の分割シミュレーションと
先々起こり得る問題への対処、といった感じです。
メインは相続税対策ではなく、分割対策となります。
認知症対策も含まれるかもしれません。
コンサル会社や税理士事務所の得意分野は相続税対策です。
ここが一番税制のメリットを享受しやすく、
コンサル報酬を得やすいからです。
※大抵の税務コンサルの報酬は「節税額×〇〇%」です
いっぽう、分割対策には専門家がいません。
感情の面が絡みますので、
そもそも士業の専門分野ではないともいえます。
相続での認知症対策は、弁護士か司法書士が専門家です。
任意後見にするか家族信託を考えるか、というくらい。
生前贈与や生前売買を考えるなら税理士の分野ですが、
税理士だって不動産の専門家ではありません。
見当外れのアドバイスをすることもあります。
不動産絡みの相続は、専門分野が複数に跨ります。
そのためコンサル会社は、
各専門を結ぶ職務領域として機能します。
ただし、コンサル業務は手間がかかりますので、
その分の報酬が発生します。
コンサルにとって楽なのは、都内に物件1つだけの地主。
評価も簡単、報酬も高いですね。
あるいは規模の大きい法人の事業承継が絡んだケース。
自社株評価があり財産評価額は跳ね上がりますし、
やりがいもあるでしょう。
コンサルにとってメリットが少ないのは
まさに地方郊外の複数不動産所有者(個人)です。
報酬も低いし、調べるのも遠いし手間だし、
個人同士の感情のもつれに巻き込まれればストレスも大きい。
やりたくない分野になります。
よく相続対策本を読むと
「現金を不動産に変えて相続税対策」
「法人を設立して法人化」
などと書いてありますが、
相続税対策がそこまで求められるケースは少なく、
また、地方不動産がメインの相談者なら
法人化はやるだけムダになることが多いです。
「相続はこうしろ!」みたいな
セミナーや本に書いてあることと、
現実に郊外地主が取るべき相続対策では、
実態の乖離が起きているのです。
郊外地主や郊外不動産オーナーの方々は
適切な相談相手がいないように思います。
たいてい銀行に提案されて遺言信託(?)するか、
農協に相談してアパートを建てるわけですが、
分割や相続後の資産維持に主眼を置いておらず、
けっこう的外れです。
「遺言書が必要だ!」と思って司法書士や行政書士に相談しても、
彼らは不動産の専門家ではないし、分割の専門家でもありません。
顧客の意向を聞いて遺言書に起こすのが基本です。
実際、専門外のアドバイスを無責任にできないわけで、
致し方ないことです。
稀に、とても気の利いた遺言書を拝見することもありますが、
多くは【全財産を~~に相続させる】で終了です。
それでも無いよりマシなのですが、必要な提案が無いことが多いです。
現実的なニーズと合っておらず、のちのち問題になることがあります。
長子相続を前提にしていたが、子世代の確執を生んでいるケース。
配偶者の認知症を想定していなかったケース。
不動産の書き漏れがあって問題になるケース。
共有の解消をしなかったケース。借地権が発生するケース。様々です。
分割がメインテーマになる相続は、
子世代の意向を無視すると失敗します。
一般論で言うと、
・子世代は郊外の不動産にあまり期待していない
・子世代は権利意識が高い(法定相続分を主張する)
・子世代は地元に戻ってこない
・子世代は土地を守ることが第一選択ではない
・子世代は草の管理をしたくない
こんな傾向があります。
もちろん、ご家庭によっては
地元に根差した後継ぎがいらっしゃいます。
その場合配慮すべきは、他の相続人の意向です。
遺留分に配慮した分割方法を模索することになります。
親世代が想定する何倍も、子世代は揉めます。
親世代のときの相続はプラスの財産を巡った争いでしたが、
子世代の相続は不要農地など、
マイナスの財産の押し付け合いになります。
「財産を残してやるんだから文句言うな」
という気持ちもわかるのですが、
それでも子の意思を無視した結果、
子世代が揉めて絶縁する事例は沢山あります。
あまりに子の意思と反している遺言だった場合、
親の遺言を無視して、子が相続放棄することがあります。
実際、同順位の兄弟から相談を受けましたが、
まったく縁の無い地域の不動産を相続してしまい、
だいぶ困っていました。私も放棄をお薦めしました。
感情を無視した相続対策はあり得ません。
単純な財産勘定だけではなく、
皆様のご意向を踏まえた対策が取れるといいですね。