取引できる人・できない人
不動産業というのは、
お客様の物件を売ったり買ったり、
貸し借りするのをお手伝いする仕事です。
つまり、人様の資産を元手に仕事をするわけで、
お客様のふんどしで相撲を取るような商売です。
お客様の物件が無ければ、そもそも仕事がありません。
その意味で、我々不動産業者はお客様に
"仕事をさせて頂いている"立場だと思います。
ですから、不動産営業さんが
お客様に対して偉そうな態度を取っていると、
「他人のふんどし(=不動産)で仕事をしているくせに、
なんでそんなに偉そうなの?」
と思うこともあります。
一方で、お客様だったら何でも偉いのか、というと、
それも違うと思います。
不動産会社というのは、基本的に成功報酬の商売です。
取引が成立しない限り、何の利益にもなりません。
相談するだけしておいて、何時間も費やした挙句、
他社さんで不動産を購入されて、
こちら側は手数料ゼロ、なんてことは日常茶飯事です。
どの業種であっても、営業という職種は数字を追及されます。
利益を上げられなければ、営業の存在価値はありません。
時間だけ費やされて、なんの報酬も得られないと、
営業にとっても会社にとっても大きな損失となります。
営利企業である限り、すべてのお客様を平等に、
100%大事にできるわけではないのです。
残念ながら、これが現実だと思います。
不動産売買というものは、売買価格だけではなく、
難解な法令制限や近隣の人間関係、土地の過去の来歴など、
様々な要素が絡んだうえで、取引が成立しています。
売主は、不動産に対して長年の思いがありますし、
買主は「一生の買い物だ」と思って挑んできます。
取引をお手伝いする不動産会社のサイドも、
「人生を左右する場面でトラブルがあってはいけない」
と思って、本気で挑まなければなりません。
そんな場面で、
「で、おたくにお願いしたらうちはなんの得があるの?」
「不動産会社なんてどこでも一緒なんだからさー」
「手数料いくらまけてくれるの?」
みたいなことを軽いノリで言われてしまうと、
こちらもカチンときます。
別にそう思うのはご自由なのですが、
そういう言動を簡単にできる人間性に不安を感じます。
特に取引の場面では、売買契約を結んで、
売主と買主が、お互いの債権債務を履行することになります。
法律行為の当事者として責務を果たしてもらうのです。
自分の都合しか考えておらず、
相手のことを思いやれない人は、
契約した後でも言動や行動をひっくり返そうとします。
つまり「大人として契約関係を結べない人」
である可能性があるのです。
実際、たまにこういうことが起きます。
・売買契約を結んだ後に値下げしてもらおうとする
・契約した後で手数料を下げろと言ってくる
・売買契約を結んだのに「思ってたのと違うからやっぱりやめた」という
・契約した後でも他社に聞いて回ったりして意向がコロコロ変わる
・契約解除したのに手付金を渡さない、違約金を支払わない
・かなり無理な難癖をつけて訴訟をちらつかせる
等々。
正直、営業サイドの不手際だと思うことも多いですが、
自分本位な都合を無理やり押し付けてくるお客様も、
現実いらっしゃいます。
法律上、不動産会社というのは事業者で、
お客様は消費者という扱いです。
ひとつの専門分野において、
事業者と消費者の間には、知識と経験において優劣があります。
消費者は事業者よりも弱い立場とされますから、
消費者法(消費者契約法・特定商取引法等)によって保護されています。
弱い立場だから守ろう、というわけです。
しかし、それを逆手にとって高圧的な態度に出るお客様もいます。
先日、何気ない問い合わせで
「手数料は払いたくないんだけど仕事してよ」
「やってくれないんだったら
片っ端から他社に聞いて回るからいいんだけどさ」
ということを言われました。
普通に断りました。当たり前です。
"消費者だから何をしてもいい"わけではありません。
不動産営業も一人一人が人間です。
ないがしろにされれば悲しいです。
威圧的に出られると怖いですし、
いろんな会社と天秤にかけられると、モヤっとします。
私の場合「地元の人のためならいいか」と思って
営業仕事を抜きにして動くことがあります。
普通の不動産会社では誰も相手にしてくれず
放置されたまま地元民が困っている問題、
というのがけっこうあるのです。
大抵は、面倒ばかりで利益にならない仕事です。
慈善事業をして問題解決すると、
ほとんどの場合とても感謝して頂けるので嬉しいのですが、
ごく稀に「やってくれて当然」みたいな態度を
取られることがあります。あれはちょっと悲しい。
お客様の人柄、というのは意外に重要です。
不動産の現場では、
とにかくトラブルに気を付けないといけません。
一度に数百万、数千万円が動く仕事です。
トラブルになれば、その一歩先は訴訟です。
訴訟になれば時間も費用もかかりますし、
精神的なストレスも尋常ではありません。
大きな取引であるだけに、一度のトラブルが、
お客様の人生を壊しかねません。
トラブルというのは、
不動産の性質・不具合というよりも、
お客様との認識のズレによって生じます。
売主と買主がいて、その間に担当営業がいる。
それぞれのコミュニケーションがうまくいっていないから
契約後に「思っていたのと違った」「やっぱりおかしい」
となって、大きな揉め事に発展してしまいます。
ですから、
「意図が伝わらないお客様」
「意図を伝えてくれないお客様」
「コミュニケーションが上手くいかないお客様」
「約束を破りそうなお客様」
「嘘をついているお客様」
「一度きめた意思を簡単に翻すお客様」
「"俺はお客様だぞ"という態度しかできないお客様」
こういった方々とは一緒に仕事ができません。
私も仕事になりませんし、お客様も幸せになれないでしょう。
このあたりは日常の人間関係と一緒。
気が合うか合わないか、
ただの相性の問題だったりもします。
私と仕事ができなくても、
他の人間とは仕事ができることもあります。
それはそれで仕方ないことですね。
ちょっと話はそれますが、
『グロースの翼』というテレビ番組があります。
地元の中小企業応援番組みたいなやつ。
そこで中里スプリング製作所という、
ねじ工場の会社が特集されていました。
群馬県高崎市の中小企業です。
社長の中里さんのモットーは
「好き嫌いで仕事する」なのだそう。
「お客様が会社を選ぶ」だけではなく、
「会社がお客様を選ぶ」というのです。
実際、中里スプリング製作所では、
担当の人間が
「どうしてもこの顧客とは付き合えない」と思った際、
会社に申請して、担当から外れることができるとのこと。
「好きになれない嫌な客は切っていい」
というのです。
「嫌いなお客様のために働いてもいい仕事ができない」
「このお客様のためになりたい、と思えば良い仕事ができる」
要するに「好きな人のためなら楽しく一生懸命働ける」という訳ですね。
確かに、業者も顧客も、
お互いに人を選んで仕事する方がよいと思います。
こちらの意図が伝わらず、情報に振り回され、
信頼関係を築けない方は一定数いらっしゃいます。
そういう方には深入りせず、
ある程度、距離感をもって接するようにしています。
べつに私と仕事しなくとも、
どこかで誰か気の合う営業を見つけてくれればいいのです。
そういう方に遭ったときは、
「どこの会社にお願いしてもいいですけど、
最低限、これとこれとこれは気を付けてくださいね」
というような感じで念押しして、
お客様の判断に委ねるようにしています。
互いに人を選んで、意図の伝わる者同士が
十分なコミュニケーションをとっておけば、
思い違いは発生せず、円満な取引ができるはずです。
円満な人間関係が築ければ、
取引が終わったあとでも、その関係が続きます。
悲しいかな、どんなに注意していても
予期しないところからトラブルが起きることはあります。
そんな場面であっても、結局、お客様の優しさに助けられて
事なきを得ることが多いように感じます。
あらゆる側面で、
我々は地元の皆様に助けられて
仕事できているのだと思います。
不動産営業というと、
「胡散臭い」「怪しい」「騙されそう」
みたいなイメージがまだまだあります。
謙虚さを忘れず、それぞれのスタイルで
お客様に「よかった」と思ってもらえる仕事をしたいですね。