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行き過ぎた相続税対策

不動産コンサルティング

「相続対策」と言っても、その中身は様々です。


揉めないようにする対策、

分けられるようにする対策、

納税できるようにする対策。


様々な対策の中でも「節税できる対策」は、
皆さま関心が強いところです。


無駄な税金は払いたくない。誰しもそう思います。


まず、東松山市の地主やオーナーの方で、

高額な相続税が発生するのはごく一部です。


都内の23区内で50坪の土地を持っていれば、
容易に評価額は1億円を超えますから、
あっという間に相続税の課税対象者です。

しかし東松山駅徒歩20分くらいのところで土地を50坪持っていても、
相続税評価額は800万円くらいです。

金融資産が1000万円あっても、

基礎控除の範囲内ですね。相続税はゼロです。

東松山市なら、木造2階建のアパートを2棟くらい持っていても、
相続税評価額は5000万円くらいで収まる人が多いです。


もちろん、駅前のビルを持っていたり、
それなりに資産背景のある非上場企業の株主だったりして、
1億円を超える資産になってくると、
多少は相続税を気にする必要が出てきます。


とはいえ、純資産が1億円だとして、
相続人が子2人だとすれば、相続税は770万円です。


あえて言いますが、たったの770万円
お父様の金融資産で支払うか、不動産をすこし売却するか。

いずれにせよ1億円もらったうち、
770万円を支払うならなんとかなりそうです。


この770万円を節税するために、
都内の賃貸ワンルームマンションなどを買って節税を試みようものなら、
賃料下落リスク・空室リスク・売却金額の低下リスクなど、
過分なリスクを背負うわけで、
素直に770万円支払った方が賢明かもしれません。



それでは、純資産が総額2億円ではどうでしょう。
相続人が子2人だとすれば、相続税は3340万円。結構高くなります。

3億円だと6920万円。4億円の場合は1億920万円の相続税となります。

5億円になると、税額1億5210万円です。税率はもはや45%。


※小規模宅地などの軽減措置はとりあえず考慮外


純資産が6億円超になると、最高税率で55%になります。
半分持っていかれるイメージですね。

「資産家も 三代経れば ただの人」などと言うのは、
このあたりの高税率から来ています。



税金というのは、税を担える人から多く徴収します。
金持ちは余裕があるので税金を沢山取れる、と考えているわけです。
担税力といいます。


さて、東松山市でも東松山以外でも、

もちろん資産家はいらっしゃいます。

数億円の保有資産でしたら、
争う相続を防ぐためにも、相続対策は必要でしょう。
もちろん、相続"税"対策も行います。


今回取り上げたいのは過度な相続税対策です。


昨今、相続コンサルタントみたいな業種の方が増えました。
相続税専門の税理士も沢山出てきました。
相続税というのは普段見慣れないだけに、相談相手が欲しいのでしょう。


税務というのは、一般の方が思っている以上に、
グレーゾーンが広いです。

たとえば、個人事業主の方が、
飲食代やら出張旅費やら、
何でもかんでも経費にして申告しました。
特に税務署から指摘されなかったとします。


「こんな感じ
で節税できたからお前もやってみな」


と言われて、鵜呑みにするのは危ないです。


その時は税務当局がスルーしただけであって、税法違反は税法違反。
数年後にまとめて指摘され、百万単位で追徴を食らうこともあります。

実際、よくある話なのです。

その時に、支払う現金があればいいですが、
キャッシュが無ければ、あっという間に窮地に追いやられます。
変な節税や申告忘れが原因で、廃業に追い込まれる事業主もいらっしゃいます。


"副業で節税!"のサラリーマンが、
投資物件の減価償却費でマイナスを作って、
所得税の還付を受けようとする場合もリスクが伴います。


税務署は、一度もらったお金は返したくありません。


つまり還付の際、税務署側は不正が無いか調べたくなります。
節税スキームで還付を受けようとするときは、
税務調査を受けるつもりで慎重に行うべきです。


相続税についても同様です。
要するに「あからさまに節税目的」だとわかれば、
「きちんと納税しろ」とお咎めを受けます。


今回ご紹介するのは、
令和元年 8 月 27 日東京地裁で棄却された事例です。


94歳で亡くなった被相続人は、
亡くなる3年前から、
都内の賃貸物件を約13億8000万円分購入し、
銀行から10億円ほど借金をしました。

13億8000万円で購入した不動産は、
土地が小さく、階数の多い賃貸収益物件。
ミニ高層マンションみたいなイメージです。


現金を不動産にして賃貸に出すと、

相続税評価額が下がります。
相続税評価の基準に則って計算すると、
3億5000万円くらいになったそうです。


購入価格が13億8000万円。
相続税を計算する時は3億5000万円として計上。
さらに購入した時の借入が10億あります。
トータルでは、もはやマイナス資産です。

結局この相続では相続税をゼロとして申告しました。



本来、被相続人の純資産は6億円超あり、
1億円を超える納税となるはずが、税金はゼロ。

何より、13億円超で買った物件が3億5000万円で評価されている。
おかしいでしょ、ということで、国税当局から処分を食らいました。



国税庁の役割というか、根本的な考え方は

「善良な納税者が課税の不公平感を持つことがないよう、
納税義務が適正に果たされ」るよう努める
のだそうです。


つまり、あからさまな脱税は認めないよ、ということです。
突っ込めば税金を取れるものは、当然取りに来ます。



そもそも、なぜ13億円の物件は3億5000万円で評価されたのか。

これは、現金で持っているより不動産の方が相続税評価が下げられる

という簡単な事実によります。


ざっくり説明しましょう。

現金で1億円持っていれば、相続税申告時の評価額は1億円です。

一方、不動産の場合は、実際に売却してみないと価格がわかりません。
だいたいこれくらいで売れるかな、とは思いますが、
実際に買い手が見つからないと、いくらで売れるかわかりませんよね。
どこにも値札なんて付いていません。


その為、不動産の評価については、
財産評価基本通達という「不動産評価の説明書」みたいなものを使って、
路線価や土地面積、土地の形状などから金額を算定します。


この財産評価基本通達の特性上、
不動産は、実際の取引価格より低くなるよう設定されています。


※そもそも相続税路線価は、時価の80%を目安に設定されていますし


計算方式はそれなりに複雑なので割愛しますが、
評価方式の特性上、以下のような現象が起こります。


・自宅は賃貸不動産にすると評価が下がります

・更地は貸地にすると評価が下がります

・土地が小さく背が高いマンションは評価が下がります

・建物を建てると評価が下がります


すると、今回のように「なるべく土地が小さい高層物件」
「賃貸に出す」ことで、かなり評価を圧縮できます。


現金 100%

高層マンション 40%

賃貸に出す 20%


くらいまで下がってしまいます。
劇的な効果ですね。


しかし、相続税申告で、不動産の評価については、

財産評価基本通達に基づいて計算してもいい

という取り扱いです。

あくまで原則は時価なのです。


財産評価基本通達 第1章総則-1 評価の原則
(2) 時価の意義
 財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。


これが基本です。

「基本的には通達の計算方法でいいけど、怪しかったら時価です」

というのが国税局の言い分です。


時価、というのは売らないとわかりません。
実際に買い手がついて、初めて時価が判明します。


では売るつもりのない不動産の時価はどうするのか?

そのために、不動産鑑定士という職業が存在します。


不動産鑑定士は「通常の取引価格は~~~円です」と、

不動産を評価してくれます。これは一定の効力があるので、
不動産の価格で揉めたときは、鑑定士に不動産鑑定書を出してもらうのです。


※鑑定士の意見もあくまで一意見です。
ひとつの不動産に対して、
鑑定士それぞれの考え方で計算するので、評価額は一つに定まりません。

相続人同士で時価評価の対立が起きた時、
相続人が別々に不動産鑑定書を出し合って決着がつかない、
という血みどろの争いが発生したりもします



事例に戻りましょう。

今回、13億8000万円の物件は、計算すると3億5000万円になりました。

国税局は、それはおかしい。時価と乖離している。ということで、
不動産鑑定士に鑑定評価を依頼しました。


出てきた評価額は12億7000万円でした。

それはそうですよね。
13億円で買った物件が3億円になる、というのがそもそもおかしいわけです。


そんなわけで、この相続人は国税庁から更正処分を受け、
不服審判の審査請求をするも棄却、
訴訟を提起したものの、地裁・高裁ともに棄却となりました。


しかし、我々庶民にとって困るのは、
「どういう納税はセーフで、どういう納税はアウトなのか」
という話です。基準がわかりません。

相続税を逃れる為ではなく、

純粋に賃貸経営を始めるために大量購入したかもしれない。

高齢になって、戸建よりもマンションに住むのが安心だと思ったかもしれない。

100億円の現金が余っていて、
なんとなく気分で全部マンションにしたくなっただけかもしれない。



このあたりは、明確な判断基準がありません。
国税庁も裁判所も、怪しい事例を見つけたら、
ひとつひとつ精査して「確実に税金逃れだ」と判断できるものを見つけ、
それを更正処分とします。

明確な判断基準が無い為、グレーゾーンとも言えます。
現実、申告してみないとわからない、というのが現状です。


ただし、判例からある程度の基準は見て取れます。


・時価と評価額の著しい差
・相続開始直前に取得していないか
・相続税を減らす意図を示す証拠があるか
・企画して実行しているか
・借入を行っているか
・賃貸収入と月々の返済額は妥当か
・相続後に売却しているか


MJS 第92回 租税判例研究会資料参照


本事例でも、銀行借入の際の資料には「相続税対策のため」と書いてありました。
この手のお話は、たいていの場合は税理士がコンサルに入っているでしょう。
賃貸収入は月々の借入返済額に満たず、
賃貸経営として成り立っていません

相続人は不動産取得後、賃貸経営を継続するでもなく

不動産を売却してしまいました。


これらの事例を総合的に判断して、

官公庁はこれは相続税逃れだと判断したのです。

最終的に、相続人が支払う相続税の総額は2億4000万円となりました。
ゼロだったのが2億4000万円ですから、大変なことですね。



本事例、それなりに大きな税理士法人がコンサルティングに入って
相続対策を行ったものと思われます。

それでも、けっきょく更正処分になってしまったわけでして、

税理士にお願いしたから
税理士が大丈夫だと言ったから

というのは、通用しません。


税理士先生だって、日々いろんなグレーゾーンの中で戦っているのです。

節税対策を提案されて実行したとしても、
それに伴うリスクだって事前に説明されており、
お客様はその確認書にハンコを付いています。


節税=グレーゾーンとの戦い


何をするにせよ、
リスクとリターンを天秤にかけて、
覚悟のうえで実行するようにしましょう。


※※その後・・・※※


区分所有建物の相続税圧縮率が問題とされており、

高層タワマンによる相続税圧縮スキームが有名になりました。

そのため、区分所有建物の相続税評価方法が改正され、

圧縮率はだいぶ穏やかになりました。

昔みたいに、時価100%→相続税評価額20% のような事例は無くなりました。


賃貸物件=相続税評価額圧縮 というのは昔から変わりませんので、

不動産資産が多かったり金融資産が多く、相続税に悩む富裕層は、

相変わらず賃貸物件を建築・購入し続けることになります。


この手の税金圧縮スキームはいたちごっこでして、

また新しい節税スキームが流行るものと思われます。

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