遺言と法定相続分、「とりあえず共有」のお話
松堀不動産では、地主様、オーナー様から賃貸物件をお預かりして管理しています。
先日、とあるオーナー様と遺言書のお話をしていたのですが、
他の営業がぽつんと言いました。
「"遺言書”ってなんか響きが嫌ですよね。
不吉じゃない名前にしたらいいのに」
相続で困るといけないから遺言書を書いてください、
なんていうと、自分が死ぬみたいで縁起が悪いし、不吉だ。
そんな感覚のようです。
確かにそういう感覚もあって、エンディングノートのような、
亡くなる方のお気持ちを遺す商品ができたりしました。
実際、遺言書を薦められたけど、
「俺が死ぬのを待ってるつもりか」などと怒ってしまって、
書かないままお亡くなりになる方もいる現状です。
相続の仕事をしていると、遺言書があったというだけで、少しほっとします。
こと不動産については、遺言書で決められているだけで、
モメる確率がぐっと下がります。
相続のお仕事では、モメている人ばかり目にします。
平和裏に相続が終わっている方々は、
わざわざ相続コンサルタントなどに相談しないわけですから、
必然、我々のところに来る方はモメていることが多いのです。
相続とは、一人の方が亡くなって、ご親族がその財産を引き継ぐことです。
一応、亡くなった方の財産は、
亡くなった瞬間から、相続権を持つ人がみんなで共有、ということになっています。
その後、遺言書があればその通りに相続し、
遺言書が無ければ皆様で話し合いを行います。
遺言書が無い場合は話し合いになるのですが、
これはただの話し合いではありません。
相続とは財産を引き継ぐことです。
こじれる時の相続とは、財産の奪い合い、つまりは金銭の奪い合いです。
この奪い合いは、金銭的な利得だけではありません。
今までの親族感情のこじれが爆発したり、
亡くなった方の”遺志”を忖度しあったりします。
最後に親の面倒を見た子にとっては、
他の親族が冷たく映っていることもあります。
親は長男に全て相続させると言っていただとか、
いいやそのあと俺に相続させると気持ちが変わったのだとか、
そもそもお前はずっと実家暮らしなのに俺は家を出されて
自分でローンで家を買って一生懸命生きてきたんだ 云々・・・
金の奪い合いに、今までの家族への気持ちが乗るから収拾がつかないのです。
遺言書が無い場合は、亡くなった方の財産を洗い出して、
どのように相続するかを相続人の皆様で話し合い、
遺産分割協議書を作成する必要があります。
銀行の預金口座であれば、
遺産分割協議書に加えて相続人皆様の
戸籍謄本、印鑑証明書などを持って銀行に行き、
預金口座の名義変更(または引き出し)を行います。
不動産の場合も同様に、遺言書が無く、相続人が複数の場合、
遺産分割協議書が無いと相続登記が行えません。
もし誰か一人でも相続財産の分割方法に納得できず、
協議書にハンコを押してもらえなければ、相続財産は未分割のままです。
つまり、預金も下せませんし、不動産も名義変更できません。
当然、売却もできません。
※預金については少し払い戻しを受けられるよう法改正がありましたが
有効な遺言書があれば(かつ遺贈でもなければ)、
他の方のハンコ無しでも手続きが可能です。
つまり、話し合いの必要がありません。
話し合いが発生すると、財産の奪い合いになり、感情爆発に繋がるわけで、
話し合いが発生しなければモメる確率はぐっと減ります。
モメて弁護士でも入れてしまった場合は、絶縁になってしまうことが多いです。
弁護士は依頼人の味方ですので、基本的には依頼人の利益を保護しようとします。
親族で互いに弁護士を立てていれば、
お互いの弁護士がお互いの依頼者の利益を主張しますので、
対立構造が生まれてしまいます。
つれづれと書いてしまいました。
葬儀ポータルサイトの「葬儀のデスク」をリリースした
株式会社グッドオフというところが、
「遺言書」についてアンケートを実施したそうです。
内容は以下から飛べます。
//www.jiji.com/jc/article?k=000000006.000068576&g=prt
アンケート結果上では、
Q. 「遺言書を残したい」と考えたことはありますか?
A. 考えたことがない 48%
やや考えたことがある 28%
考えたことがある 24%
Q. 遺言書を残したい人はいますか?
A. 複数人いる 49%
いない 36%
1人いる 15%
Q. 遺言書の作り方を「相談できる人」はいますか?
A. 相談相手がいない 42%
ネット検索すればよい 47%
相談相手がいる 11%
という結果だそうです。
つまり、
遺書を残したい人は沢山いるのに、実際に遺言書を書いている人は少ない
という趣旨になります。
遺言書、というと
「被相続人の”お気持ち”をしたためる文書」
というイメージを抱いている方が多いですが、それだけではありません。
法律的に有効な遺言書を作成して、分割方法を指定しておくと、
お子様は有無を言わさずそれに従うことになりますから、
「親がそれを望んでいるなら仕方ない」ということで、
お子様がモメずに済みます。
自筆で遺言を残した場合は、
あとから「遺言書の有効性」を巡って争いが勃発することがあります。
最後の方は、親などは判断能力が低下していることが多く、
「お前が無理やり書かせたんだろ!」などと、
他の方が言い出すことがあるわけです。
最近は、法務局の自筆証書遺言保管制度ができましたが、
方式の確認に留まるため、内容の確認をしてくれるわけではありませんし、
保管後、相続人の住所が変わってしまえば通知も届かなくなってしまいます。
有効ではありますが、万全な制度とは言えないでしょう。
私としては、あくまで公正証書遺言がお勧めです。
公正証書まで残しておくと、ご遺志に不服があった場合でも、
なかなかそこからモメようという気にはなりません。
公正証書遺言の有効性を争った裁判例もありますが、
相当な瑕疵が無い限り、有効と認められます。
不動産の話でいうと、
たとえば相続で揉めるのを恐れ、
ひとまず相続人共有で登記してしまうことがあります。
共有にしてしまった結果、皆の足並みが揃わずに売却もできず、
管理は地元の親族に押し付けられて、さらに不満が膨らむケース。
共有にした後、売却すべき時に売却せず、
地価が低下して期待した金額にもならないため、相続人皆が関心を失い放置、
仕方なく近隣の住民が草刈りをして管理している状態の土地。
(駅から離れた住宅団地でよく見かけますね)
賃料収入があるアパートなども共有になってしまうと、
修繕の負担・収益の分配 という問題が発生します。
これはリアルに金銭の奪い合いにつながりますので、
後々の火種になりやすいです。
よく言われる話ですが、
「とりあえず共有」というのは不動産では一番やってはいけないことです。
しかし、実際に相続発生後、遺産分割協議でモメると
「じゃあとりあえず法定相続分で」という話になりがちです。
法定相続分なら平等だろう、という考え方です。
分割協議が整わない遺産共有の状態では、
相続登記は行われていませんので、登記上には現れません。
この状態は通常の共有とは違って、
共有物分割請求の対象にはならないとされています。
要するに、「分けたいならちゃんと話し合いなさい」ということです。
この「話し合いなさい」というのは
「話がまとまらなければ裁判所に行きなさい」ということです。
弁護士に依頼する、というと脅し文句のように聞こえますが、
当事者同士で話し合って解決しないなら仕方ありません。
弁護士に依頼したら即訴訟、というわけでは全くありません。
受任通知が届いたらびっくりして話し合いの席に着く人もいますし、
そもそも調停前置主義の日本ですから、調停で解決することが多いです。
弁護士に依頼する=訴訟になる=モメる=喧嘩!絶縁!
という感覚は広く抱かれており(あながち間違いでもないです)、
「モメるくらいならとりあえず共有」というのは、
現実的な要請でもあります。
ただしかし、それは要するに問題の先送りです。
ちなみに、弁護士も司法書士も税理士も
「この不動産はこういう分け方にした方がいい」
というアドバイスはくれません。
金銭・金融資産など”分けられる資産”については、
多少アドバイスをもらえることもありますが、
不動産は、下手に触ると後でトラブルになりかねないので、
「相続人の皆様で話し合って決めてください」
「決まらなければ共有です」
で終わってしまうことが多々あります。
実際にあった事例ですが、
相続人のうち高齢な方がいらっしゃって判断能力が疑われるため、
司法書士が後見人として入っていました。
相続財産は築古のアパートと、リフォームすれば貸せそうな築古の空家。
被成年後見人の高齢者に相続されると、
アパートの処分行為や空家の大規模修繕などは行えません。
他の相続人は
「とにかく不動産は共有にしないでほしい。代償金を払ってもいい」
という希望でした。もっともなことです。
しかし、後見人である司法書士は、教科書どおり
「全て共有、法定相続分通りでお願いします、他は認めません」
と言い、頑として譲りませんでした。
こうなると、どうしようもありません。
司法書士としては、被後見人の財産を保護し、利益を守るのが役割です。
逆に言えば、被後見人の利益を損ねかねない行為は一切したくない。
裏を読めば、変に触って面倒ごとに巻き込まれたくないのかもしれません。
気持ちはわかりますが、
共有のために起こるトラブルを無視するのも、どうなのでしょうね。
とにかく、他の相続人は皆、その司法書士のことをひどく恨んでいました。
税理士経由の相談で、途中で離脱してしまったため、
最後どうなったかはわかりません。
最終的に調停でも持ち込んだのか、未分割のまま相続税申告したのか。
相続手続きが終わった後も、親族と司法書士との付き合いは続きます。
間違いなく、その後の関係性は最悪だったと思います。
理想としては、
生前にご相談頂いて
全体財産と不動産資産のバランスを見て、
皆様のご意向も踏まえつつ、
生前のうちにプランを練り、
プラン通りの遺言を作成しておくのが望ましいです。
さらに遺言の内容を、生前からご家族皆様に周知しておけばベストです。
そこまでできていれば、ご家族も心の準備ができていますので、
円滑に資産承継ができるでしょう。
お気持ちを遺すエンディングノートも大事ですが、
あくまで、法的に効果のある遺言書が第一です。
お気持ちは、付言事項で残せばいいのです。
ということで、残される側の立場から考えると、
遺言書が無い方がよほど”不吉”だと思うのですが、如何でしょうか。