不動産売却 一括査定について
あなたがご所有の不動産を売却したいとか、
価値が知りたいと思ったとします。
とりあえずインターネットで検索してみるはずです。
そこで「不動産 売却」で検索してみましょう。こんな感じです。
一括査定という言葉ばかり出てきます。
一括査定とは、
ご所有の不動産情報を入力して査定ボタンを押せば、
複数の不動産会社に情報が行って、
沢山の会社が査定をしてくれる、という仕組みです。
昨今、一括査定サイトが山のように増えています。
たとえば都内の不動産で一括査定をやってみると、
その情報は5~10社くらいの不動産会社に届きます。
「一括査定ボタン」を押したら、その数分後には電話が鳴り響きます。
東松山の物件でも3~8社くらいには届くでしょうか。
情報が届いた瞬間、とにかく反射的に電話がかかってきます。
「連絡はメールでお願いします」と注意書きしても、
多くの不動産会社は、まず電話をかけてきます。
ほんの軽い気持ちで「査定!」を押してみたら、
その後1ヶ月~3ヶ月は継続的に電話が来るでしょう。
あなたが「売却をお願いします」と言ってくれるまで。
電話をかける不動産会社営業の気持ちはこうです。
「まずは電話だ。とにかく電話でアポを取って一度会うこと。
会って話せばあとはトークで何とでもできる」
だいたいの不動産会社はこんなノリです。
迷惑がられたら謝ればいいだけです。
個人情報が向こうの手に渡りますから、
ダイレクトメールや営業メールが定期的に届くかもしれません。
あなたは沢山の会社から、顧客リストに追加されることでしょう。
今回は一括査定について、不動産業者の視点から考えてみます。
売買を取り扱う不動産会社にとって、
大切なのは「売ります」「買います」という案件です。
そもそも、そういった話が無いと
何の仕事もありませんし、なんの利益もありません。
社員の給料も支払えません。
不動産業者というのは手数料商売です。
取引が生じて、その取引の仲介を行って手数料を頂くのが基本です。
また不動産仲介の仕事というのは、あくまで成功報酬。
取引が成立して、やっと報酬をもらえます。
どんなに頑張っても、お客様と仲良くなっても、
取引が成立しない限り手数料はもらえません。
営業社員の成績はゼロです。
営業社員は毎週のように上司からこっぴどく詰められることでしょう。
売却案件は、不動産業者にとって
手数料に近い、ありがたい仕事といえます。
なぜなら、いちど売却をお願いされてしまえば、
購入者がどこの不動産会社からの紹介であろうと、
確実に売主から手数料がもらえる。
ですから売却案件は、手数料をもらえる見込の高い案件なのです。
ぜひとも預かりたいのです。
その入り口となる一括査定。
複数業者との激しい競合を乗り越え、なんとか物件を預かりたい。
不動産業者はこう考えます。
素早くお客様とコンタクトを取り、直接話してグリップを掴む。
できれば、会ったその場で媒介契約にサインをもらう。
物件売却をお願いされれば、継続的に付き合いが生まれる、
「とにかく販売契約(媒介契約)を結ぶことが最優先」。
一括査定において、不動産業者の行動原理は
「売ってもらうこと」。これだけなのです。
少し話はそれますが、例え話をしましょう。
あなたが所有している不動産に対して
3社がそれぞれ以下のように言っています。
A社「3000万円ですね」
B社「4000万円です」
C社「5000万円でいけます」
さて、あなたはどの会社に売却をお願いしますか?
それはもちろんC社ですよね。
そんなに高く査定してくれるなんて・・・と思うはずです。
この3社、それぞれ言っていることは違いますが、
実のところ、正解は何一つありません。
それぞれ、過去の事例や取引相場を見ていますが、
最終的に「こう思う」と推測しているだけです。
あえて言いますが、
査定価格なんていうのはただの感想です。
不動産価格査定書の中身を見ると、
何らかの科学的な計算をしているように見えます。
しかし統一された、明白な評価基準は存在しません。
各種の補正率は、営業の思うままに操作できます。
相場、というのは確かにありますが、
これも営業個人ごとに価値観は異なります。
不動産査定というものに定められたルール・計算規則が存在しない以上、
評価方法も人それぞれ、価格も人それぞれ。
恣意的に操作できるものです。
実際、私が1500万円だと思った不動産が
2000万円で売れたこともあります。
逆に、他社から1400万円だと言われて売りに出したものの、
まったく売れずに2年経過。
結局、弊社が販売を代わって最終的に決まったのは、850万円。
そんなこともありました。よくある光景なのです。
不動産鑑定評価、公示地価、相続税評価額、固定資産税評価額
様々な角度から、ひとつの不動産に異なった価格がつけられます。
つまり、不動産に確実な価格査定なんてありえません。
さきほどのA社、B社、C社。
どうしてこんなに価格に違いが出るのか。
それは結局のところ
「実際に売れた価格が査定と違っても、
不動産業者は何も責任を負わないから」
です。言いたい放題なのです。
しかし、あなたの不動産がC社に5000万円と評価されたことは、
あなたにとってかなり嬉しいようです。
そのため、一括査定の現場では「とりあえず高いこと言って預かる」
という営業トークがよく使われます。
ちょっと変則事例ですが、こんなことがありました。
とあるアパートの売却査定依頼があり、3社が競合していました。
その中の1社が私です。
結論から言うと、私は競合に負け、
アパートの売却は大手不動産会社が販売することになりました。
どうして大手不動産会社は物件を預かれたのか。
売主は、アパート以外にも土地を持っており、
そちらについても、かるーく査定価格を聞かれていました。
大きい土地でしたが、物件の周辺状況が悪く、
2000万円でも売れないような土地です。
私は地元企業ですし嘘も言えませんから、
素直に「1500~2000万円くらいです。売れるのに時間もかかります」
とお伝えしました。
一方、大手不動産会社は、この土地を4000万円で売るといいました。
売主は大いに喜び、それが決め手となりました。
アパートの販売契約(専任媒介契約)は大手不動産会社のものです。
大きな土地は明らかに見当はずれな価格で販売されることになりました。
ちなみにこの土地。
4000万円で売りに出して、当然ながら1年以上売れないまま、
結局売るのを諦めてしまったようです。
アパートの方は、幸運なことに弊社のお客様で申込があり、
大手さんとの共同仲介で売買となりました。
私は若干白けていましたが、円満な契約風景ではありました。
さて、この一連の流れ。
大手不動産会社は決して嘘はついていません。
何度も言いますが、不動産の価格なんてわからないのです。
「もしかしたら謎の大富豪が1億円で買ってくれるかもしれないじゃないか」
と言われて完全に否定することができるでしょうか。
ならば、ひとまず良いことを言っておいて物件を預り、
あとから少しずつネガティブなことを伝えて
ちょっとずつ値段を下げてもらえばいいのです。
一度物件を預かると、売主と継続的な関係が生まれます。
"預かってしまえば、後からどうとでもなる"ということです。
一括査定に話を戻しましょう。
実は、一括査定に登録している不動産会社は、
問い合わせが1件あるたびに課金されています。
10社一括の査定だったら、10社の不動産会社が、
相応の料金を査定サイト運営会社に支払っています。
かるーい気持ちのワンタッチボタンなのですが、
そのワンクリックでエグい金銭が飛び交っているわけです。
つまり不動産会社は、既に経費が発生している。
ということは、このお金を回収しないといけません。
だから必死に架電するのです。
一括査定サイトは、軽い気持ちで問い合わせできますから、
様々な目的で利用されています。
・売る気はないんだけど、なんとなく今の相場が知りたいだけ。
・自分の土地ではないのだけど、実家の土地がいくらか知りたい。
・最近買った家を査定するといくらになるか試してみたい。
こんな軽い事情でも一括査定は利用可能です。
※「こんなんで〇〇万円取られるんか・・・」と思ったりはします
これくらいの事情ならまだいいのですが、
・不動産を誰に相続させるか参考にするため。
・離婚の財産分与の参考価格に使いたいから。
・住み替えを考えていて、売却する金額を元手にしたい
このような、人生で重大な事情があったとしても、
不動産会社は本気でかかってきます。本気でお世辞を使ってきます。
とりあえず高いこと言ってくるわけです。
お客様によっては、情報を精査できず、
高すぎる、"売れない金額"を基準にして離婚の話し合いをしたり、
遺言書を作成したり、住み替え先を探したりすることがあります。
これは当然、現実に反する仮定をもとに意思決定をしているわけで、
のちのちのトラブルの原因になるでしょう。
※離婚や相続の現場では、当事者同士が不動産会社の査定書を出し合って
「この物件はいくらだ!」「いいやもっと高い!」と争うことがあります。
合理的な理屈をつくって査定価格を500万円、1000万円くらい操作するのは、
正直簡単なので、これらの査定書は「色を付けた」査定書だったりするわけです
不動産会社の姿勢を攻めたいとも思いません。
彼らは営業です。数字上げてナンボです。
どんなに正確に不動産査定ができたところで、
売上を立てられなければ即解雇です。
お客様が軽い気持ちで一括査定ボタンを押している裏側では、
不動産会社間で激しい競争が行われているというわけです。
さて、いい人っぽく書いていますが、
一括査定の時は、私も似たような対応をします。
どうしてもお世辞っぽくしないと話が続きません。
とはいえ無責任なことも言えず、後ろめたさや疚しさと葛藤の末、
だいたいこんな感じの話し方になります。
「〇〇〇万円くらいで売れた事例があります。
一般的な価格(3ヶ月~半年くらいで売れる)は
△△△万円くらいだと思います。
ただ最悪は✕✕✕万円です。」
「ここ数年は取引価格が高く推移していますから、
急がないなら、ひとまず◇◇◇万円で売りに出してみましょうか」
価格についてはこんなところです。
そのあと、法的制限がどうだとか、所得税がどうだとか伝えます。
細かい事情を教えてもらえた時は、
それに合わせて考慮すべきことを付け足します。
けっこう、網羅的に情報を伝えるタイプです。
さて、こういう眠たいことをぐだぐだ言われるのと、
「□□□万円(私のお世辞より200万円くらい高い)で売れます」
「いますぐ紹介したいお客様がいますからやらせてください」
こんな感じでキッパリ言い切る人と、
実際の現場ではどちらが勝つでしょうか。
けっきょく勝つのは
"自信あるしゃべり方"
"言い切る力"
みたいなものでして、
残念ながら私は、一括査定からお仕事を頂戴するのが下手です。
さて、ここからは私が思う一括査定の使い方。
・査定会社を絞ろう
問い合わせ先を選べる場合は、3社くらいでいいと思います。
2社に個別に丁寧に対応してもらう、というのも良いです。
・電話が面倒なら最初に書いてしまおう
「仕事のため電話は一切出られません。メールでお願いします」
と書いてしまえば、さすがに電話してこないです。
電話してきたら「いま忙しいのでメールでお願いします」と応えましょう。
情報だけ欲しければ、それで問題ありません。
・住所、地番、建物の概要は正確に
不動産会社が場所を特定できると話が早いです。
・個別の事情を正直に
たとえば昔に自殺があったとか、室内汚いです、とか。
特別な要素がある際は、最初に書いておいてください。
・最低限、返事は返しておこう
メールが来たら、簡潔でも返事を返しておきましょう。
それに対する反応を見てよいと思います。
・会社ではなく担当で考えよう
不動産の仕事は営業個人によって良し悪しが変わります。
喋りは上手いがトラブルだらけのイケイケ営業さんは避けましょう。
一般的に、小さすぎる会社は避けるべきです。
・価格だけではなく安全を考えよう
不動産売買は、トラブルが発生した際のストレスや被害額が大きいです。
ごく稀に、裁判に発展することもあります。
イケイケ営業より「色々苦労したんだろうな」という感じの方が
先回りして色々トラブル予防してくれます。
最後に。不動産会社は、あくまで売却案件を得るために
一括査定サイトへ登録しています。
つまり、不動産会社にとって一括査定の問い合わせは
「売却の問い合わせ」なのです。
あなたがどんな理由を書いても、不動産会社の考えは同じです。
人件費を使い、登記簿を取得し、交通費を使い、役所調査を行い、
査定書まで作るのです。ボランティアではありません。
「売却の問い合わせ」だから、査定サイトに課金するし、
経費を取り返すために鬼電がかかってくるのです。
不動産会社サイドから考えると、しつこい営業かけられて当然なのです。
ですから、逆にいえば
売却前提ではないのに一括査定で問い合わせしないで欲しい
これが不動産会社の本音です。
実際、軽い問合せばかりの査定サイトから、
不動産会社は離れていきます。
問い合わせ件数が多いのに成約件数が少ない。
それは要するに、手間暇ばかりかかるが
1円も回収できない査定サイト、ということです。
不動産会社にとって何の意味もありません。
査定サイトの方も、確度(訪問率・成約率)が高い問合せを得られるよう、
見えないところで様々な工夫をこらしています。
そうした様々な思惑の結果、皆様の1クリックが生まれるわけです。
付け加えておくと。
不動産に絡む話は、かなり重要な個人情報が含まれます。
誰に届くかわからない一括査定で
デリケートな個人情報をばらまくより、
不動産会社の問い合わせフォームに直接問い合わせる方が安全です。
弊社でも丁寧に対応していますし、
大抵の会社で無碍な扱いはされないはずです。
会社への直接連絡だと、
不動産会社の方も「他社と競合している」という焦りが無くなります。
そのため、しつこい営業電話をしない傾向にあります。
お客様にご連絡するなら何かプラスの情報がある時にしたいわけで、
必要なければ営業電話なんかしたくないです。迷惑ですから。
一括査定というシステムは素晴らしく、
弊社も利用させて頂いています。
その一方で
「ちょっとこれは営業さんに色々言われて変な方向に行ってるなぁ」
と感じることがたまにあります。
少し詳しくご説明させて頂きました。
※※余談※※
たとえば世の中のポータルサイトと呼ばれるものは、
全て広告サイトです。googleだってヤフーだって何だって、
閲覧数を増やし、閲覧者を企業へ流しているわけです。
一括査定サイトも一緒。
「一括査定って素晴らしいよねー」という価値観を広めて、
一括査定に人を集めて不動産会社へ送客する。
対価として不動産会社から広告費を徴収しています。
最近、お客様がよく言います。
「ネットで調べたら複数社に聞いてみるべきだって書いてあった」
確かに沢山書いてありますね。
その価値観を広めたのは他でもない、「複数社に聞いてもらうことで得する会社」です。
実はマッチポンプだったりして。若干、踊らされているようにも見えます。
たくさん聞いて回って、何か意味あるんでしょうか。
不動産の価格は不動産会社ではなく、市場が決めるものだと思いますが。