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離婚するとき持ち家はどうなる?

売却のあれこれ

若松 俊輔

筆者 若松 俊輔

一般のお客様を対象とした売買営業から始まり、
相続コンサルタント業務、税理士法人の不動産部門での勤務を経験後、
現職に至ります。経験を活かし、様々な角度からお客様の問題解決をサポートします。



最近、一括査定などの売却相談でよく「離婚」の相談が来ます。
離婚にまつわる相談の典型例はこんな感じ。

・20代~30代初めくらいで結婚した
・結婚したので二人暮らしの新居を買った
・新居を購入してまもなく、性格の不一致から離婚話に
・ところでお家はどうなるんだろう?

というところです。1年に10回くらい相談が来ます。

売却相談にならないことも多いのですが、
確かに疑問に思うのはわかります。


多様性の世の中とはいえど、
多くの場合、お家は夫の名義で購入していて、
夫が住宅ローンを組んでいます。

既に子供がいる場合も多く、
妻としては「住む家はどうなるんだろう」
「養育費はどうなるんだろう」と、
心配になって一括査定ボタンを押すのでしょう。
必要な情報はできる限りお伝えするのですが、
まともな返事が返ってくることは稀です。
内緒の相談なのかもしれませんね。


ずいぶん前ですが、妻側から離婚の相談をされた際、

「離婚したらお家は私のものになるし、養育費ももらえるんでしょ?」

と言われたことがあります。

どうやら

"ダンナが悪いんだから、たくさん財産がもらえるべき"

という感覚があるようです。懲罰的な離婚観なのですね。


離婚というのは単なる婚姻の解消に過ぎません。
本人同士の自由な合意により離婚ができます。
当たり前ですが、離婚届の紙一枚で離婚は成立します。
離婚するだけなら簡単な話です。

一方、離婚に伴って何らかの金銭を得ようとすると苦労します。
協議のなかで"払うよ"と言ってくれればいいのですが、
強制的に支払わせたいと思えば、法的な根拠が必要になります。


離婚に際して、得られる可能性がある資産は

・養育費
・婚姻費用
・慰謝料
・財産分与

くらいかと思います。


このうち養育費については、民法上"定める"とされています。
決めなければいけません。
これは夫婦の離婚がどうというより、子の保護のためです。
養育費の算定表、みたいなのがありますが、
現実でも、この算定表を叩き台にして話し合います。

こんなの。実際かなり使われる表です


次に、慰謝料は単なる損害賠償の話です。
特別に精神的苦痛を受けた際に認定されるものです。
不貞・悪意・DV・性交渉の拒否のような離婚事由も
精神的苦痛に含まれたりします。
こういうのがあった場合、
離婚協議時に「慰謝料を払え!」と言えることがあるわけです。


婚姻費用というのは、民法760条に規定されており、
「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、
婚姻から生ずる費用を分担する。
とあります。
夫婦生活のための費用を不当に支払っていない場合、
離婚時にこれを請求されるのです。
婚姻が破綻した後に生じた費用も支払うのが原則ですから、
別居している夫婦の生活費用は、相互に扶助すべき費用にあたります。


不動産が関係するのは財産分与
民法768条には
「協議上の離婚をした者の一方は、
相手方に対して財産の分与を請求することができる。」
とあります。
結婚してから形成した財産は、ひとまず
「夫婦の協力によって得た財産」と見なされるため、
貯金だろうが株だろうが不動産だろうが
すべて2分の1というのが実務上の原則です。


ここで冒頭の「住宅ローンで買ったお家」が問題になります。
お家ですから不動産。つまり財産です。
離婚の際には当然、お家を財産分与する話になるはずです。


まず大原則ですが、財産分与というのは"財産"の分与です。
つまり、形成したプラスの財産を分けるのが財産分与です。

そのため実務上、
マイナスになる財産(=負債)は財産分与の対象になりません。
夫婦生活維持のための借金であっても、殆どの場合はダメです。
「財産分与はプラスの分与」であって、
マイナスも夫婦で折半、とはしてくれないのです。
分けるのはプラスのものだけ。マイナスのものは分けない、ということ。


さて、住宅ローンで買った家ですが、
このお家には住宅ローンという借金がくっついています。
借金を一括で返さない限り、家は売れません。
たとえば

「家は2000万円で売れるが(+2000万円)
住宅ローンが2100万円残っている(-2100万円)

この場合、差し引きマイナス100万円です。
会計上、このお家はマイナス財産(=負債)ですね。
マイナス財産は財産分与の対象にはなりません。
財産分与しないのですから、夫名義の家は夫のままです。
そもそも分ける対象にはならないわけです。
このような状態をオーバーローンといいます。


さて、離婚を検討する妻が、

「離婚したいけど家はどうなるのか?私のものにならないのか?」
「財産分与で家を売り払って、いくらかお金をもらえないのか?」

と思うのは当然なのですが、
残念ながらそう上手くはいきません。
以前も他のページで書いたのですが、

「土地から新築した家や新築建売住宅は、
すぐに売ってもマイナスになる」

こんな大原則があります。

ちょっと具体例で検討してみましょう。


例題1)土地を買って注文住宅を新築した

東松山市の土地1000万円(駅徒歩22分、市街化区域)を購入し、
注文住宅(本体+外構=2600万円)を建築した。
住宅ローン総額は諸経費を含めて4000万円。
3年後、離婚のため自宅を売却したい。

解説)

築浅住宅の売却を考えるとき、

「同じ地域の新築建売住宅がいくらで販売されているか」

を見てみるのが簡単です。

東松山だと、市街化区域の新築建売住宅は、
だいたい2500~3000万円くらい。

ふつう、人は中古住宅より新築住宅を好みます。
そのため中古物件は新築建売に勝てないことが多いです。
「新築建売より安くなるのが普通」だとすれば、
中古住宅は2500~3000万円くらいが価格の上限になるはずです。

他の観点からも考えてみます。
住宅購入者の収入を考えてみましょう。
東松山市で住宅購入する若い世代の年収は
なんだかんだ400~500万円くらいです。
住宅ローンは年収の7倍が上限だと考えることが多いですから

"頑張ってこだわりの注文住宅を建てるなら4000万円"
"現実を考えるなら、高くても3000万円以内"

これくらいが一般的な感覚になるわけです。
すると、やはり「中古住宅なら高くても3000万円まで」
となります。
物件が良いとか悪いとかは正直あまり関係ありません。
単純にカネの問題からして
"東松山の中古住宅は3000万円くらいが価格の上限"なのです。

以上から、例題1の物件が売れる価格は
"高くても3000万円程度"と見当をつけます。

一方、このお家には3700万円の借金が残っていますから、
トータルすると

3000万円(資産)-3700万円(負債)=-700万円

となり、これはマイナス資産財産分与の対象になりません。
つまり奥様はこのお家をもらえないわけです。


例題2)新築建売住宅を購入した

東松山市の新築建売2600万円(駅徒歩22分、市街化区域)を購入。
住宅ローン総額は諸経費を含めて2850万円。
3年後離婚することになり、自宅を売却したい。

解説)

「建売住宅」というのは、
丸ごとパッケージで「土地+完成したお家」が販売されている戸建です。
建売住宅は、万人向けの間取りをイメージしてつくられています。
完成品の新築住宅で、買ってすぐにそのまま住める。
簡単なので、こだわりがない人はこれで済まます。

万人向けに設計されている商品ですから
売る時も比較的売りやすいのですが、
売る時の家は"中古"。それなりに価値は低下します。


先ほどと同じように、
東松山の新築建売市場が2500~3000万円程度だとすれば、
築3年経過した中古の建売住宅だと、
2000~2700万円くらいになるかな、と考えます。
時期や物件の状況によって価格が変わりますが、だいたいこのくらいでしょう。

例題では買ってから3年間、住宅ローンを支払いましたから
現在のローン残債はだいたい2650万円くらい。
すると、上手く売れれば

2700万円(資産)-2650万円(負債)=+50万円

となり、若干プラスになるかもしれません。

しかし、中古のお家を売る際は諸経費がかかります。
仲介手数料・引越し費用・抵当権抹消費用等を考慮すると、
手元にお金は残りません。むしろ若干マイナス。
建売住宅も、築浅で売却すればマイナスになることが多いです。



こんな感じで「物件の価格に上限がある」というのは
地方郊外の不動産業者の中ではよく知られた現象です。

たとえば地方郊外では、1億円かけた家だろうが何だろうが、
売る時、1億円だとほぼ売れません。
3000万円、ということは無いでしょうけど、
4000~5000万円になってしまうのではないでしょうか。
最悪3500万円くらいかも。
一方、都内23区の普通の土地だったら、
1億円かけたお家は8000~9000万円くらいで売れます。
同じお家が田舎にあるだけで半額になってしまう。恐ろしいですね。


なぜこうなるかと言えば、
「地方では高い金を出せる人が存在しない」からです。

地方にもお金持ちはいらっしゃいますが、
そんな高い金を出すなら、
もっと便利な地域の物件を買います。
地価が安く土地が余っている郊外地域では、
家を買うのに大金をかけられる人はいませんし、
お金がある人はもっと良い土地を選ぶわけです。

そもそも都会から離れれば離れるほど、
"地域そのものの経済的価値"は低くなるわけで、
経済的には自然なことです。


話が脱線しました。離婚の話です。
新築住宅を買った夫婦が離婚するケースでは多くの場合、
住宅は、財産分与できるようなプラスの財産ではありません。

マイナス財産は、所有者に帰属する"負債"として扱われます。
つまり、お家は夫のもの、借金も夫のものです。


すると妻は"じゃあ私はどこに住めばいいの?"と疑問に思います。
夫も夫で、"じゃあ俺の家はどうしたらいいの?"となります。
これが、家有り夫婦が離婚する際に起こる問題。

「持ち家がある離婚の場合、離婚した夫婦はどこに住むのか?家はどうするのか?」

という問題です。
売ってプラスが残るなら処分すればいい。
でも売ってもマイナスになって売れない。手放せない。
夫婦は別れたが、家だけ残る。さてどうするか。

これにはいくつかパターンがあります。


①妻が引越し、夫は自宅に住み続ける

⇒わりと一般的なパターン。夫が住みます。
妻が実家に帰るならよいのですが、
賃貸を借りる場合だと、家賃が発生しますから
その支払をどうするのかが焦点です。


②妻が自宅に住み、夫が引っ越す

⇒これも多いです。住宅ローンは夫が支払い続けます。
住宅ローンの支払い≒養育費の一部、みたいな扱いです。
妻と子供に自宅を使わせ、夫は賃貸や実家に引っ越します。
相当の期間が経過した後、
「住宅ローンが終わったのに妻が家を返してくれず困っている」
という相談をたまに受けます。
"妻子をいつまで居住させるか"
"子供が成人したら元妻はどのように出ていくのか"
等、事前に決めておけるとよいでしょう。


③妻も夫も引越し、自宅は売却する

⇒こうしたい人は多いですが、
自宅がオーバーローンの場合、
夫がマイナス分を補填する必要があります。
「マイナス分は夫婦で折半するべき」という議論がありますが、
離婚協議上、ほぼ確実に折半できません。
ここで引っかかる方が多いので注意してください。


④妻も夫も引越し、自宅は賃貸に出す

⇒売ってもマイナスになってしまうから、
ローン残債が減るまで賃貸に出しておきます。
必ず、事前に銀行の同意を取ってください。
勝手に貸すのは契約違反です。


⑤引き続き一緒に住む

⇒たまーにあるケース。妻が職を得るまで同居したり、
子供が中学卒業するまで一緒に住んだり。


⑥自宅を妻名義にする

⇒住宅ローンが無いお家の場合、
財産分与によって妻名義にすることがあります。
住宅ローンがある場合は銀行の同意が必要。
銀行は、自宅(資産)と住宅ローン(負債)を両方とも妻名義にするよう求めます。
結局、妻自身が住宅ローンの審査に通らなければいけないわけで、
なかなかうまくいかないことが多いです。


こんなところでしょうか。
どれが正解ということもありません。

※「妻は専業主婦orパート、親権者は妻」というケースで書いています



なお離婚協議にあたっては、

「本当に養育費を支払ってくれるかどうかはわからない」

ということを認識してください。

妻は妻の理屈で「月10~12万円支払ってよ」と言いますが、
夫は住宅ローンの支払いがあるうえ、
さらに月10万円なんて支払えないことが多いのです。

民間の調査では「養育費を満額支払えている夫は5割程度」
厚生労働省調査によれば
「母子家庭の24.3%しか養育費を受け取れていない」
という有様です。


逆に夫からしても、"無理なものは無理"なのです。
支払える収入が無ければ養育費なんて払えないですし、
「子供には一切会わせない。だけど高い養育費を払え」と言われて
打ちのめされている夫もいます。こんなの3,4回聞きました。


ちなみに妻側は、きちんと要件を揃えれば養育費の取り立てが可能です。
裁判所に申し立てて、夫の給与口座を差し押えます。
やろうと思えばできるのですが、毎回それをやっているのも大変です。
支払う気をなくした夫は養育費を支払わなくなるし、
そもそも夫が無職になれば簡単に滞ってしまうものです。
けっきょく養育費・婚姻費用などというのは
他人をあてにしている時点で、確実に入って来る保証がありません。


※最近では民間の「養育費の保証会社」が登場しています。
本気で養育費を取りに行くなら
「離婚協議書、公正証書、養育費保証会社、夫の給与振込先口座」
このくらい押さえておくべきなのかもしれません。
あるいは夫の親に連帯保証人になってもらうとか。
いっそ親の家を担保に入れてもらうとか。
こうなると、もはや借金取りですが…



日本は無宗教の恋愛結婚国家ですから、
離婚のハードルが著しく低いです。
"恋愛"、つまりいっときの感情で結婚して、
恋愛感情がすり減ると"性格の不一致"で離婚します。

それはそれで仕方ないと思いますが、
結果、子供を作ったあと離婚したシングルマザーは
多くの場合、お金がありません。
妻側に貯蓄や収入がなければ、すぐに貧困状態に陥ります。

住宅ローンが絡めば、離婚後は夫の生活も厳しくなります。
住宅ローンと養育費で月20万円。なのに給与の手取りは月24万円。
こんなの無理です。
自己破産したって養育費の支払い義務は残りますし、
家と車を手放せば生活にも困ります。
かといって養育費の支払いが滞れば、
妻だけでなく子も貧困状態に巻き込まれます。
実家の援助があればいいのですが、
孤立無援、女手一つで頑張っている方も多いのです。


いま離婚を考えているご夫婦はもう仕方ないのですが、
今は仲が良いカップルも、将来安心とは限りません。

何度も書いていることですが、住宅ローンで家を買う前に


"本当に長年別れずに夫婦をやっていけるか"
"子供ができても変わらないか"
"大喧嘩しても離婚せずに一緒に住めるか"
"もし離婚しても住むところがあるか"


改めて考え直してほしいです。

離婚と住宅ローンが絡んだせいで、
苦しい人生を送る若年層があまりにも多い。
少しでも疑問が残るようなら、いったん賃貸住宅にするか、
値崩れしない築古の中古を買ってください。
たかだか住宅ごときで人生をフイにしないで欲しいです。


※私も離婚していますので人のことは全く言えませんが

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