"負"動産を判定する考え方
人口減少社会・高齢化社会・空家問題・・・。
騒がれるニュースのなかで"負動産"という単語もお馴染みになりました。
郊外・地方で所有している謎の山林。
原野商法で昭和30~40年代に取得した建築不可の原野。
ご実家が地方で、もはや市場価格がつかないようなものもあります。
あとは所有しているだけで管理費がかかるリゾートマンションやリゾート別荘。
温泉使用料・管理料を取られる別荘地もありますね。
我々が東松山でよく遭遇するのは
「建物古い」「中外ボロボロ」「荷物たくさん」という戸建。
土地では、昭和30~40年代に分譲された古い住宅団地の狭い更地。
買ってから放置したまま50年経ち、もはや山林と化した分譲地もあります。
樹木を伐採するだけでいくらかかるんだろう、という物件です。
要するに「タダでもいらない」物件。まさしく負動産です。
不動産屋さんは引き取ってくれないし、売却物件として取り扱ってくれない。
不動産引取業者、なんてのもありますが、
むしろ100~300万円くらいお金を支払わないと引き取ってくれません。
税務上あるいは行政上、不動産というのは
所有しているだけでプラスの財産と見なされます。
「プラスの財産を持っている=所有者は税金を担う能力がある」
と考えるため、市町村は固定資産税を課します。
不動産の評価額を市町村に請求してみれば
「評価証明書」という書類には、必ずプラスの価格が記載されています。
田畑でも山林でも、数百円~数千円のプラスと書かれているわけで、
その不動産は必ずプラスの価格があるものと評価されています。
また、法人が不動産を所有する場合
決算書には不動産がプラスの資産として記載されます。
貸借対照表の資産の部に、
特定の不動産がマイナス表記されることなんて考えられませんよね。
しかし一方、本当のところは違います。
市場に売り出してみても誰も買わないし、誰も要らない。
自分で処分しようと思えばお金がかかるばかり。
そういう不動産が、世の中には無数にあります。
根本的に矛盾があるわけですが、現在の日本はそのようになっています。
現実の市場で価格が1円もつかなければそれは負動産だと考えられますが、
もう少し厳密には、
「価格がつかない」かつ「誰も使わない・利用しない」不動産のことを
負動産とするのが正しいでしょう。
東秩父の山奥のガケ地を持っていたとして、
その土地でキノコ栽培するのが生きがいだったら、
負動産ではないでしょう。
土地を相続したお子様がガケ地の処分に困ったときは
負動産として扱われることになります。
ここで負動産というものを評価してみましょう。
まず土地の場合。
駅から離れた住宅団地でも、金額が安くてそこそこ広さがあれば、
未だに家を建ててくれる人はいます。
たとえば
「ふつうに家を建てられる土地で、更地だったら150万円で売れるところ」
があったとします。しかし、そこには使えないくらいの廃屋が建っていて、
家の中には荷物が山ほどある。
このときのイメージは以下のようになります。
「ふつうに使える更地だったら150万円で売れる」
⇒「だけど普通の更地にするためには費用がかかる」
⇒「250万円の費用がかかるから売ってもマイナスになってしまう」
⇒「だから売れない」
という理屈の流れです。
つまり「資産価値(青)より必要経費(赤)が上回る」物件の場合、
経済的にマイナス不動産だと考えられます。
マイナスなので誰も要りません。不動産業者も買えません。
市場価格としてはマイナスなわけですから、
これを売りたいというのは、要するに誰かに負債を押し付けるという話です。
お金を出して買う人はいませんね。
中古戸建の場合も同じように、最初は
「最低限住めるくらいにキレイなお家」を想定します。
たとえば、駅から離れた団地の昭和53年築の戸建。土地は30坪くらい。
駐車スペースは軽1台か、下手すれば0台。
東松山だったら「まともに使えれば200~300万円」くらいの価値です。
しかし、そういった戸建の多くは相当経年劣化しており、
そのままでは使えないのが実情です。
イメージは以下のようになります。
中は荷物だらけ、外壁は手入れしていないし雨樋も崩壊している。
室内は床が抜けていたり、水回りも新築当時のままでボロボロ。
「最低限キレイにしたら300万円で売れると思う」
⇒「だけど荷物撤去して外壁やり直して中を綺麗にしたら460万円かかる」
⇒「じゃあマイナスになってしまう。タダでも要らないじゃん」
という話になります。
こういう不要となった戸建、周りに迷惑をかけなければ
現状のまま放置しても構わないのですが、
処分したいと思った時にはすべてが困難になります。
かかる費用が売却価格を上回れば、けっきょく経費超過、
債務超過みたいなものです。
つまり実態として、これは資産ではなく負債と考えられます。
重要なのは不動産会社の存在。
不動産を売りたいとき、普通は不動産会社に依頼しますよね。
ところで不動産業者というものは営利企業であり、
利益を上げなければ倒産してしまいます。
すると、市場価値がマイナスの不動産は、
不動産会社がそもそも取り扱えません。
扱わないのではなく扱えない。
負動産の取引からプラスの報酬を生み出すことができないからです。
売買価格200万円以下の物件では、
不動産業者が売主から頂戴する仲介手数料の上限は税込19.8万円。
19.8万円というと十分な金額だと思いますが、そんなこともありません。
ひとくちに不動産を販売するにしても、
複数のポータルサイトに掲載すれば広告宣伝費がけっこうかかります。
売却査定だって、一括査定を利用していれば
年間数十万円~多ければ100万円以上の経費です。
人件費・テナント料・光熱費・広告宣伝費・事務員の給与・ネット利用料etc...
皆さまが「まともな不動産屋」だと思うくらい宣伝できる不動産屋は、
かなり経費をかけているわけです。
年間2,000万円売り上げる営業だって、年収はせいぜい400~500万円くらい。
最低限でも、不動産営業は一人あたり毎月150~200万円くらい稼がねばなりません。
そのなかで19.8万円という報酬は「経費割れ」「効率悪い」とされます。
物件価格が安ければ安いほど問い合わせ数は多くなります。
たとえば100万円の戸建を通常にネット掲載すると
会社がパンクするレベルで問い合わせが殺到します。
そのほとんどが徒労に終わりますが、
お客様商売である以上、問い合わせを無視するわけにはいきません。
丁寧に対応していれば、あっという間に一週間が終わってしまいます。
結局、100万円の戸建を取り扱うことで、
明確に会社にマイナスの影響が出るわけです。
※たとえば某大手不動産会社は、1,000万円以下の物件だと取り扱いNGです。
中小企業でも500万円以下はNGだったりします。
一般的な不動産会社は低額物件を扱えるような事業モデルではない、というのが正しいです。
そんなわけで結局、負動産というのは、
不動産会社から相手にされず放置されてしまいます。
最近では、0円物件だったりジモティーだったりいえ市場だったり、
タダの物件を掲載できる仕組みがありますが、これらは
自分で探して、自分で調べて、自分で問い合わせ対応して、
自分でリスクヘッジして引き受けることになります。
特に買主側は、かなり気を付けて購入する必要があるでしょう。
不動産が個人売買市場でも売れなければ、もはや放置するか、
"お金を支払って誰かにもらってもらう"しかありません。
昨今、不動産引取業者が少しずつ増えてきました。
詐欺みたいな会社もあれば、誠実に引き取ってくれる業者もありますが、
まともな会社だったとしても、
ボロ戸建1戸引き取るのに100万円以上かかるのが普通です。
そりゃそうです。本来、その不動産は"負債"なのですから。
話は少し逸れますが、
我らが東松山市というのは、都会と田舎の相の子みたいなところがあります。
駅前は商業地域として、それなりに高価格で取引されてきましたが、
駅から少し離れればすぐに市街化調整区域の田舎。田畑が広がっています。
東松山市は人口9万人を切る小さな地方都市です。
一様に高齢化・少子化・人口減少の流れにあります。
東松山市のなかでも、駅から離れた郊外不動産は
徐々に価値を減少させており、値段が付かない物件が増えてきました。
一方、駅前のマンションや便利な市街地の土地は、
都内の不動産高騰の余波を受け、多少なりとも価格上昇基調です。
郊外でも国道・県道沿いでは、
工場や倉庫用地の開発が計画されていたり、老人ホームが沢山できたり。
便利な場所は、どちらかといえば僅かに価格上昇の傾向があります。
すると、東松山市のなかでも、
都会部と田舎では、物件価格の傾向が逆転しているわけです。
これは日本全体で考えても同じです。
日本の不動産をマクロの視点でとらえると、
都市部(都内や三大都市圏)では価格上昇、
郊外や地方では需要減少・価格減少、というように
二極化の傾向が見て取れます。
東松山市を単体で考えても、
駅前・便利な市街地では価格上昇、郊外は価格下落、
という二極化が起こっているのです。
直近、東松山市が推計したところによると、
2040年の東松山市人口は約8万人です。1万人減ります。
「8万人を確保したい」というのは目標でして、7万人になってしまう推計もあります
減少する1万のうち、9千人が生産年齢人口と呼ばれる世代です。
つまり経済活動する労働力が1割減る、という推計です。
働く若者が減少すれば地域経済は衰退しますし、税収も減ります。
いっぽうで高齢化はさらに進んでいき、社会福祉費は増大し続けます。
どこの郊外も一緒ですが、明るい未来を描きにくい実情です。
人口が12%減るのに、
長期的に地価が上がったり不動産需要が増えるとは考えにくいです。
駅近くの中心地は価値を維持できるかもしれませんが、
駅から離れた郊外物件は、本格的に需要を失っていくものと思われます。
現在はまだ「ぎりぎりプラスの価格が付く物件」であっても、
時が経つにつれ「負債」になってしまう物件が増えるでしょう。
ところが日本の所有権は「所有権絶対の原則」に基づき、
そう簡単に他人の所有権を犯すことができないように法律がつくられています。
※中国人が日本の土地を爆買い、みたいなニュースをよく聞きますが、
中国は国内で土地の絶対的所有権を得ることができないため、
日本の所有権が"安全な投資先"とされていることが要因のひとつです
所有権が絶対であるということは、つまり
所有権が簡単に手放せないのと同義です。
いちど相続した広大な農地、膨大な山林。
あるいは土壌汚染の土地や埋設物だらけの農地。
これらは手放したくても手放せないのです。
日本の国土は66%が山林、13%が農地ですが、
林業も農業もやっていない多くの現代日本人にとっては
「要らない土地だらけ」というのが実情です。
もちろん公的な見方をすれば、
自給率維持向上や国土維持のため、
これら一次産業を活性化させるのは大切なことです。
ですが一方、不動産の処分を考える個人にとっては、
責任ばかりは膨大で、きちんと維持すれば経費もかかるのに、
売りたくても売れない・捨てたくても捨てられない土地たち。
何回も言っていますが、これでは呪いのようなものです。
今後、山林や農地、あるいは廃屋付きの土地などであっても、
相続土地の国庫帰属制度をもっと利用しやすくするのが、
負動産問題を短期的に解決する方法のひとつです。
社会問題としての負動産を放置し続ければ、
そう遠くない将来、大規模な荒廃地や廃屋が増えて、
ゴーストタウンができたり不法投棄の温床になるかもしれません。
あるいは、色んな国籍や特定の団体が、郊外の不動産を一挙に大量取得して
~~~タウンみたいなものが地方に点々と出現するのかもしれない。
50年後、100年後の日本の姿がどうなっているかわかりませんが、
現在はその分水嶺にあるような気がします。
※ちなみに、実際の相談では
「価格がつかない立地の土地(原野商法で取得して、現在は山林みたくなってる)」
「市街化調整区域の農地だからどうしようもない土地」というのが多い。
その次に多いのが「田舎でほとんど価格がつかないのに荷物だらけの廃屋」。
廃屋はギリギリなんとかなるものもありますが、
どうしようもないものは「どうしようもないですね…」と答えるしかないです。
いずれにせよ、不動産会社として取り組む営利性は著しく低いことが殆どですから、
根本的には、ある程度公金を入れてNPO団体や公的機関が援助しない限り、
負動産の処理は円滑に進まなそうです。