ほとんど成り立たないリースバック
昨今、よく売却相談で聞かれるのでまとめておきます。
リースバックについて。
リースバックというのは
「自分の不動産を売却して資金を得て、
自分は賃貸物件として賃料を支払い、
代わりに自分の不動産を利用し続ける」
という取引形態です。
正式名称は sales-and-leaseback。
leaseは"貸す"という訳が多いので混乱するのですが、
この場合"借りる"と訳す方が正確です。
自分の不動産を売って(sale)、借り戻す(lease back)、という意味になります。
そもそもはアメリカで事業物件を売却して現金化、
同時にその物件をテナントとして借りたのだそうな。
テナント料(賃料)は営利法人にとって経費になりますから、
所有物件を売却して現金を確保し、テナント料は経費にできるぶん
所得を圧縮することができる(=節税できる)というわけです。
リースバックというのは事業者にとって使いやすい形態です。
大企業でも自社ビルをリースバックしてみたりします。
細かい理屈は省きますが、手元資金を厚くし、貸借対照表をスマートにできるうえ、
賃料を経費化できるので、企業にとって都合がいいケースがあります。
減価償却が終わった自社ビルがあって、
かつ土地はバブル期に取得していた場合なんかだと、
リースバックで建物を売却して現金化する一方、
テナント料という経費を作り、法人税を節税するのでしょう。
日本でリースバックが流行り出したのは2010年くらいからのようですが、
ここで宣伝されたのは「持ち家をリースバックしよう」という内容。
事業用ではなく、居住用物件のリースバックが提案されます。
だいたい昭和40~50年代くらいに購入した家に住んでいる人は
現在、住宅ローンが終わって気楽になったけど、既に高齢者になっています。
高度成長期にサラリーマンで、一生懸命働いて子育てが終わり、
住宅は残ったが貯金できていない人々。
あと数年暮らしたら実家に帰るか老人ホームに入る予定、みたいなケースだと、
手元資金欲しさに自宅をリースバックすることがあるものと思われます。
さて、そんなリースバック物件ですが、
今回はリースバックを「買う側」から考えてみます。
リースバックしますよ!相談してください!と謳っているのは
不動産業者ですね。つまり営利法人です。
当たり前ですが、彼らは商売でやっています。
つまり「儲かるからやっている」わけです。
リースバックを「買う側」から考えてみると、
リースバック物件は
「金を出して不動産を購入することで、入居者から賃料を得られる物件」
です。つまり、一棟アパートや貸家と一緒です。収益物件です。
収益物件というのは投資物件です。
投資というのは"100万円投資して110万円返ってくる(利回り10%)"
というように、見返りがあるから資金を出資します。
不動産投資における見返りは2つ、
「1,000万円の物件を買って、家賃が年間100万円入る」=インカムゲイン
「1,000万円の物件を買って、1,200万円で売れた」=キャピタルゲイン
この2つです。家賃が入ったり、転売して儲けられる。
得をするから不動産を購入します。
リースバックでは、物件を不動産業者に売る際に"賃料設定"をされます。
お家を業者に売った人が、引き続き住むために支払う賃料です。
しかしこれは、基本的に収益物件としての賃料設定です。
「家賃が10万円なら500万円で買い取る」
「家賃が20万円なら1,000万円で買い取る」
というように、家賃が高く設定できるなら、
リースバックの買取価格も高くなります。これがインカムゲインというやつ。
いっぽう、
「家賃は10万円しか取れないけど、
売ったら2,000万円で転売できるので、1,000万円で買い取る」
という理屈もあります。これがキャピタルゲイン。
家賃は安いけど土地値が高い物件なら、大きく儲けられる可能性があるわけです。
リースバックは、高齢者がメインターゲットです。
高齢者は収入が少ないことが多いため、
家賃設定は安くするしかありません。
家賃が安ければそのぶん買取価格も安くなってしまいますから、
売却しても、まとまった老後資金にはなりません。
一方、土地値が高い都心の物件なら、
高齢者にとっては相応の金額で現金化できます。
リースバック業者は購入資金を支払い、
数年は資金を寝かせることになりますが、
そのぶん高齢者が死亡したり転居したら、
その物件を売却して一千万円以上の利益を得ることができるでしょう。
したがって
"家賃は安いけど、賃貸期間が短く設定できてかつ土地値が高い物件"
というのがリースバックの買取対象となります。
ところが地方郊外において、リースバック希望の売却相談は、
上記のような高齢者ではありません。
「住宅ローンの返済がきつくてリースバックにしたいんだけど、できる?
毎月の返済は減らしたいけど、引越しだけはしたくないんだよね」
という問い合わせがほとんどです。
たとえば新築建売住宅を3,000万円で購入した家族がいるとします。
毎月の返済は8.4万円。35年ローンです。
10年後、夫が失職したり、会社経営が上手くいかなかったりして、
収入が少なくなり、返済苦に悩んでいます。
※自営業者の方が、事業が赤字転落して借入の支払いがしんどくなるパターンが多いです。
任意整理や自己破産の手前でリースバックの相談が来たりします。
購入後10年経過時のローン残債は2,240万円です。
住宅ローンは「2,240万円一括で支払わないと銀行が売却を許さない」
という仕組みですから、全て返済できるまで、
実質銀行に差押えされているようなものです。
ところで、リースバックというのは不動産業者による"買取"です。
不動産業者は利益を求めて買取行為をしますから、
「一般販売より業者買取の方が価格が安い」というのが原則です。
もうひとつ。だいたいどこの地域でも当てはまる原則として
「居住用物件より収益物件(賃貸中の物件)の方が価格が安い」
という原則があります。細かい理屈は省きますが、
都内でも地方でも成立する法則です。
空家の中古戸建が販売されていたら、
買う人は、"そこに住みたい"という、ある意味非合理的な感情で買う人が殆どです。
これを貸家にした場合、こんどは家賃目当ての収益物件として購入されます。
投資は相応の利益とともに回収されるべきものですから、
購入者は合理的に購入価格を決定します。
たとえば空家だったら1,000万円で売れる戸建は、
賃借人がいるオーナーチェンジ物件の場合、
だいたい700~800万円くらいになってしまいます。
※普通の賃料の場合。東松山地域の相場イメージです
ようするに、
「業者買取」⇒安くなる
「賃貸物件」⇒安くなる
ということです。であれば、
「リースバック物件(業者買取の賃貸物件)は安く買い叩かれる」
となるのは当然のことです。
さきほどの築10年の住宅(残債2,240万円)の場合、
だいたいの相場観では
一般販売の売買価格 2,000万円~2,200万円くらい
業者買取の売買価格 1,200~1,600万円くらい
リースバックの売買価格 800~1,200万円くらい
これくらいが目安でしょうか。すると、
そもそも一般販売しても残債よりショートするのに、
業者買取もリースバックもできるわけない、という結論になります。
リースバックにして多少の現金が入ったとしても、
売主は賃借人となり、相応の賃料を納めないといけません。
貸家の賃料なんて、住宅ローンの返済額と一緒か、それ以上になります。
ですから多くの場合、"住宅ローンを支払っている方がマシ"なのです。
まとめると、郊外都市のご自宅で覚えておいて欲しいのは
「住宅ローンで買ったお家はリースバックできない」
ということです。ほとんど無理です。
そもそも住宅ローンの返済が苦しい人は、リースバックにしたところで
毎月の賃料をまともに支払う余力が無いわけです。
リースバック物件の賃借人としては保証会社の審査が通らないでしょう。
だからといって毎月の賃料を低くしたい、と言われれば、そのぶん買取価格が下がるだけです。
買取価格(=安い価格)で多額の住宅ローンの残債を返すのは難しいわけで、
やはり、リースバックは成立しません。
結局、リースバックというのは
「手元資金が欲しくて、数年住めればいいから」みたいな高齢者が主な対象です。
住宅ローンは全て返していて、自宅は完全にプラスの財産であるか、
僅かな残債が残っている、くらいの物件が対象です。
リースバック業者の目論見は、
賃料目当ての収益物件として購入するのではなく、
ほぼほぼ、転売差益が目的です。
数年後に出て行ってもらって、空家になったお家は解体し、
土地として転売する、というのが多いでしょう。
買取業者サイドも、別に暴利を貪ろうというわけでもありません。
実際のリースバックでは、普通借家契約よりも
定期借家契約が多いです。つまり期限付きの賃貸借契約です。
賃借人(元所有者)が、賃貸期間を過ぎても出ていかず
占有し続けたとしたら、これは追い出しを食らうことになります。
追い出しといっても簡単にはいきません。
買取業者側にとっては、訴訟~強制執行まで行えば、
判決が出るまでの期間と、弁護士費用や執行費用が損失となります。
つまり、リースバック業者の視点で考えると、
リースバック物件は比較的リスクが高い投資です。
リスクが高いぶん、リスクに見合った利益を求められます。
結果、安い価格で買わないとリースバックは投資に見合いません。
※最近は普通賃貸借を売りにするリースバック業者もありますが、
なんのことはない、そのぶん賃料を上げられるか、買取価格が低くなるだけです
べつにリースバックの悪口を言いたいわけではありません。
うまくハマるケースもあるでしょう。
しかし実際、リースバックが成立すること自体少ないですし、
不動産価格が低い郊外・地方に行くほどリースバックは成立しなくなります。
住宅ローンの返済が苦しくなった際、
まず考えるべきは毎月の返済の減額です。
金融機関に本気で相談すれば、
毎月の返済を減らしてくれることは案外多いようです。
フラット35の場合、半ば事務的に減額してくれたりします。
その後、家計の見直し・負債の圧縮・債務整理など考えつつ、
場合によっては自己破産するしかなかったりもします。
いずれにせよリースバックは、ほとんど検討の余地が無いでしょう。
今回はリースバックについて簡単に説明してみました。
こちらの地方だと"リースバックって無理だよねー"という話が
広まってきたように思いますが、
リースバックに妙な希望を抱くのも違うと思いますので、
現実的な資金計画を考えて頂ければ幸いです。
~余談~
ちなみに、住宅ローンを利用して土地を購入し
注文住宅を新築した人がお家を売却できるのはいつ頃でしょうか。
つまり 「住宅ローンの残債=売却価格」 になるのは何年後になるのか、という話。
これ、だいたい郊外地方の相場感だと、買ってから15~20年くらいです。
実際に売却する際は仲介手数料・引越し費用等の諸経費があるので、
築後18~22年以降から、トントンの売却が成り立つことが多いように思います。
特別に良い立地に家を建てている人は、最近の建築単価高騰のおかげで、
築後5~7年くらいでトントンの売却ができるケースもあります。たまーに、ですが。
また、昔に購入したお家が新築建売住宅だと、
当時の市場状況によっては、妙に安く買えている人がいます。
当時、割安で買っていると、
購入後10年くらいで売っても少しプラスが残ったりします。
平成22年~28年に住宅ローンで新築建売住宅を購入した方は、
住み替えを考えるならチャンスかもしれませんね。
※ちなみに都内だと15年前に家を買った人は、
今売るとだいたい数百万~1,000万円以上儲かります。羨ましい